第9回 まだ習っていない漢字が入った熟語、「読めるといいな」と思う理由
これまで、たくさんの漢字テストを作ってきました。
私が漢字テストを作るときに、できるだけ意識していることがあります。
それは、新しく習った漢字だけを使うのではなく、これまでに習った漢字と組み合わせて、熟語として出題することです。
たとえば、新しく習った漢字と、前の学年で習った漢字を組み合わせる。
そうすることで、
・新しく習った漢字の確認
・以前に習った漢字の復習
この両方を一度にすることができます。
漢字を一文字ずつ覚えるだけではなく、知っている漢字同士がつながって言葉になっていく。
私は、これはとても大切な漢字学習だと思っています。
ところが、漢字を教えていると、どうしても一つ難しいことが出てきます。
それが、漢字には「習う学年」が決められているということです。
「花粉」と書けるのは、ずっと先
たとえば、「花粉」という言葉があります。
「花」は、小学1年生で習う漢字です。
「花」という漢字を習えば、
花びら
花火
花見
など、いろいろな言葉に出会うことができます。
では、「花粉」はどうでしょう。
「花」は1年生で習いますが、「粉」を習うのは5年生です。
そのため、1年生の漢字テストで「花粉」と書かせることはできません。
「花ふん」
と書くことになります。
2年生になっても、3年生になっても、4年生になっても、「粉」はまだ習っていません。
そして5年生になって、ようやく二つの漢字を使って「花粉」と書けるようになります。
でも、ここで私はいつも思います。
書けないことと、読めないことは、同じではない。
ということです。
「粉」という漢字をまだ書けなくても、「花粉」を「かふん」と読むことはできます。
むしろ、読めるようになっていてほしいと思っています。
「手洗い」の「洗」は、6年生
もう一つ、もっと身近な言葉を考えてみます。
「手洗い」です。
「手」は1年生で習う漢字です。
ところが、「洗」は6年生で習います。
「手洗い」という言葉そのものは、低学年の子どもにとっても決して難しい言葉ではありません。
学校でも、公共施設でも、日常生活のいろいろな場所で出会います。
それでも、「洗」という漢字を学校で習うのは6年生です。
では、6年生になるまで「洗」という漢字に触れなくてもよいのでしょうか。
私は、そうは思いません。
書けなくてもいい。
「洗」という漢字を見て、
「これは『あらう』だ」
と分かる。
「手洗い」と書いてあったら、
「てあらい」
と読める。
まずは、それで十分だと思っています。
一つ読めると、次の言葉につながっていく
なぜ、まだ習っていない漢字でも読めるようになってほしいのか。
それは、読める漢字が増えると、漢字の世界が広がっていくからです。
たとえば、「洗」という漢字を知っていたら、その後、別の場所で同じ漢字に出会うかもしれません。
「洗面所」
「洗濯」
「水洗い」
全部を書ける必要はありません。
意味をすべて説明できなくても構いません。
でも、
「あ、この漢字、見たことがある」
という瞬間が生まれます。
一度知った漢字を、別の言葉の中で見つける。
そして、
「ここにも『洗』がある」
と気づく。
こうした経験が少しずつ積み重なっていくことで、一つの漢字が一つの言葉だけで終わらず、別の言葉へとつながっていきます。
「粉」も同じです。
「花粉」で「粉」という漢字を知っていれば、その後、
「小麦粉」
「粉末」
などの言葉に出会ったとき、
「あ、花粉の『粉』だ」
と気づくかもしれません。
この「気づく」という経験は、漢字を学んでいくうえで、とても大切だと思っています。
「まだ習っていないから」と避けすぎなくていい
特に低学年では、まだ習っていない漢字がたくさんあります。
そのため、大人の側が、
「これはまだ習っていないから、ひらがなにしておこう」
と考えることも多いと思います。
もちろん、子ども自身が書くときには、それで構いません。
まだ習っていない漢字を無理に書かせる必要はありません。
でも、「読む」ということまで、その学年に合わせなくてもよいのではないでしょうか。
日常生活の中には、学年に関係なく漢字があふれています。
看板、駅、スーパーの商品、学校からのお知らせ、本、テレビ、インターネット。
海外で暮らしていても、日本語に触れる機会の中にはたくさんの漢字があります。
そこで見つけた漢字を、
「まだ習っていない漢字だから」
と遠ざけるのではなく、
「これは○○って読むんだよ」
と伝えてみる。
それだけでも、子どもが出会える漢字はぐっと増えていきます。
書ける漢字だけが、「知っている漢字」ではない
漢字学習というと、どうしても「書けるかどうか」に目が向きます。
何も見ずに書ける。
正しい形で書ける。
テストで丸をもらえる。
もちろん、それも大切です。
でも、その前に、
見たことがある。
読める。
意味がなんとなく分かる。
そんな漢字がたくさんあってもいいのではないでしょうか。
むしろ、そうした漢字が少しずつ増えていくことで、実際にその漢字を習うとき、
「初めて見る漢字」
ではなく、
「知っている漢字」
になります。
これは大きな違いです。
漢字を「学年ごとに覚えるもの」としてだけ見ると、子どもが出会える漢字の範囲は限られてしまいます。
でも、「まず読んでみる」というところから始めれば、その範囲はもっと広がります。
書けなくても大丈夫です。
まだ習っていなくても大丈夫です。
日常生活の中で出会った漢字を、一つずつ読めるようにしていく。
そして、また別の場所でその漢字に出会う。
「あ、この漢字知っている」
そんな小さな発見を重ねながら、子どもたちの漢字の世界が少しずつ広がっていってほしい。
私は、そう思っています。
今回も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
