第8回 漢字テストの「とめ・はね・はらい」、どこまで気にすればいい?
「この漢字、合っているように見えるのに、どうして×なの?」
お子さんの漢字テストを見て、そんなふうに思ったことはありませんか。
「ここがはねていないから×」
「この線が少し短いから△」
「ここは、くっつけて書かないといけない」
先生によって採点が違うように感じることもあるかもしれません。
実際、漢字の採点基準は、学校や先生によって違うことがあります。
学校全体や学年で基準をそろえているところもあれば、ある程度、担当する先生の判断に任されているところもあります。
私が以前勤めていた補習校では、学年によって配点の違いはありましたが、全学年で採点基準をそろえていました。
では、そもそも漢字は、どこまで「お手本通り」に書かなければならないのでしょうか。
「とめ・はね・はらい」が違ったら、間違い?
小学校では、新しい漢字を学習するときに「とめ・はね・はらい」を大切にします。
私自身も、
「ここは、はねるよ」
「ここは、しっかりとめよう」
と、子どもたちに何度も伝えてきました。
ところが、漢字の字形について国が示している資料を読むと、少し意外に感じるかもしれません。
文化庁の「常用漢字表の字体・字形に関する指針」では、手書きの漢字には、ある程度の幅があることが示されています。
例えば、
・線の長さ
・線と線をくっつけるか、離すか
・はらうか、とめるか
などです。
いつでも「お手本と少し違ったら間違い」というわけではないのです。
もちろん、何でも自由に書いてよいという意味ではありません。
違う漢字に見えてしまうような書き方は避けなければなりません。
例えば「未」と「末」。
横画の長さが違うことで、別の漢字になります。
「田」「由」「甲」「申」なども、線がどこまで伸びているかによって違う漢字になります。
ですから、
「細かいところは全部気にしなくてよい」
ということではありません。
ただ、私たち大人が思っている以上に、手書きの漢字には許容される幅がある、ということです。
では、子どもには細かく教えなくてもいい?
ここからは、教師として、そして海外で日本語を学ぶ子どもたちを見てきた私自身の考えです。
国の指針である程度の幅が認められているからといって、
「だったら、とめ・はね・はらいなんて気にしなくていいよ」
とは、私は思いません。
特に、小学校1年生から3年生くらいまでは、できるだけ丁寧に漢字を書いてほしいと思っています。
正しい書き順で書く。
とめるところは、とめる。
はねるところは、はねる。
はらうところは、はらう。
線の長さや、どこがくっついているのかも、お手本をよく見て書く。
低学年のうちは、こうしたことを大切にしてほしいのです。
なぜなら、低学年で身につけた書き方が、その後の漢字学習の土台になるからです。
低学年で身につけた「書き方」は、その先も使います
漢字は、一つひとつが全く別の形をしているわけではありません。
これまでに学んだ漢字や、見慣れた部品が、新しく学ぶ漢字の中に何度も登場します。
低学年のときに、基本的な漢字を正しい書き順で丁寧に書くことが習慣になっていれば、新しい漢字を学んだときにも、その習慣を生かすことができます。
私はここが、とても大切だと思っています。
3年生くらいまでなら、一つの漢字の形や書き順にも、まだ比較的じっくり向き合うことができます。
ですから、この時期には、
「正しく書くことを習慣にする」
ところまで大切にしてほしいのです。
毎回、
「ここは、はねるんだった」
「これは、どちらから書くんだったかな」
と考えなくても、自然に手が動く。
そこまでいけば、その習慣は4年生以降の大きな助けになります。
ところが、4年生くらいから事情が変わってきます
4年生、5年生、6年生と学年が上がるにつれて、漢字学習の様子は変わってきます。
一つの漢字に対して出会う熟語や言葉の数が、どんどん増えていきます。
国語だけではありません。
社会や理科など、他の教科でもたくさんの言葉に出会うようになります。
学習内容そのものも、質・量ともに大きくなっていきます。
海外で暮らしているお子さんなら、なおさらです。
現地校の勉強があります。
宿題があります。
スポーツや音楽などの習い事も、学年が上がるにつれて本格的になっていくかもしれません。
その中で、日本語の学習時間を確保しなければなりません。
時間は無限にはありません。
だからこそ、私は高学年になったら、漢字学習の「優先順位」を少し変えてよいと思っています。
高学年では、「一つでも多くの言葉に出会う」
もちろん、高学年になったら、とめ・はね・はらいがどうでもよくなるわけではありません。
正しく書けるに越したことはありません。
でも、限られた30分があったとします。
その30分を使って、一つの漢字の「はね」や「はらい」を完璧にするために何度も書き直すのか。
それとも、その漢字を使った新しい熟語や言葉を5個、10個と知るのか。
海外で日本語を学んでいる高学年のお子さんであれば、私は後者を大切にしたいと思います。
読める。
意味が分かる。
その言葉を見たときに、何のことか分かる。
そして、必要になったときに使える。
まずは、そこを目指してほしいのです。
これは、「正しく書かなくてもいい」という話ではありません。
正しく書くことを大切にしながらも、年齢とともに学習の優先順位を変えていく。
ということです。
3年生くらいまでは「書く土台」を。
4年生以降は「言葉との出会い」を。
私がご家庭での漢字学習について考えるとき、一つの目安として、このように考えています。
1年生から3年生くらいまでは、
読むこと。
意味を知ること。
そして、正しい書き順や字形を意識して、丁寧に書くこと。
ここまでを大切にする。
その積み重ねによって、正しく書くことを「習慣」にしていきます。
そして4年生以降は、その土台を使いながら、
一つでも多くの漢字を読み、一つでも多くの言葉に出会う。
こちらの優先順位を少しずつ高くしていく。
特に海外で日本語を学ぶお子さんには、この考え方が大切なのではないかと思っています。
漢字テストで「○? ×? △?」と迷ったら
では、お子さんが補習校や塾から持ち帰った漢字テストを見て、
「これは○じゃないの?」
「こんな細かいところまで×にするの?」
と思ったら、どうすればよいのでしょう。
私は、まずはその学校や先生の採点基準に任せてよいと思います。
先生によって多少の違いはあるかもしれません。
毎年先生が変われば、基準が少し変わることもあるでしょう。
そこにご家庭が毎回合わせようとすると、かえってお子さんが混乱してしまいます。
学校のテストについては、その先生の基準で取り組む。
一方、家庭では、
「うちの子は、今、何を優先した方がよいのだろう」
という、もう少し大きな視点で見てあげてほしいと思います。
低学年なら、少し時間をかけて丁寧に書く。
高学年になって日本語学習の時間が限られてきたら、細かな字形の修正ばかりに時間を使わず、新しい言葉との出会いを増やす。
お子さんの年齢や、日本語を使う環境によって、大切にするものは変わってよいのです。
では、「正しく書く」と「たくさんの言葉を知る」
どちらが大切なのでしょう。
私は、どちらも大切だと思います。
ただし、いつも同じ割合で大切にする必要はありません。
小さいうちに、丁寧に書く習慣を身につける。
その習慣を土台にして、学年が上がったら、より多くの言葉の世界へ進んでいく。
海外で日本語を学ぶ時間が限られているからこそ、
「今、この子にとって何を優先するべきか」
を考えてあげることが大切なのではないでしょうか。
もし、
「うちの子の場合は、書くことと読むこと、どちらを優先したらいい?」
「補習校の漢字テストでは点が取れないけれど、このまま進んでも大丈夫?」
など、漢字学習について迷うことがありましたら、LINEからメッセージを送ってください。
すべてに個別にお答えすることは難しいかもしれませんが、同じような悩みを持つご家庭が多い内容については、今後のブログやLINEでも取り上げていきたいと思っています。
今回も読んでいただきありがとうございました。
